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約300年前から家具づくりが続く町に思い出に寄り添う家具がある

 

マルケイ木工株式会社

 

昔からモノづくりがさかんな町で、婚礼家具の産地としてその名を広く知られている府中市。同市で100年以上にわたり家具づくりを行っているマルケイ木工株式会社では開発・製造に注力し、日常を豊かにする高品質の家具を多く生み出している。

 

副業としてはじまった家具づくり 木地づくりと塗装で大きく発展

 

 全国有数の家具の産地として知られる広島県府中市。盆地で夏は暑く、冬は寒いため、農業だけで生計を立てることが困難だったことから、副業としてさまざまな産業が生まれた。その中の1つであった家具づくりがはじまったのは約300年前。松永などの港町が近く、家具の材料となる質の高い桐が全国から集まっていたことから、タンスづくりがさかんに行われるようになった。
 この地でマルケイ木工が創業したのは大正7(1918)年。現在3代目である橘髙延幸氏の祖父が興した橘髙木工所で、初めの頃は家具に使われる木地づくりを手掛けていた。家具の塗装を生業としていた親戚に後継者がいなかったため業務を引き継ぎ、木地づくりと塗装を一貫して手掛けることに。当時は木地づくりと塗装は分業が主流だったため、両方を一貫して行えることを強みとした橘髙木工所は大きく発展した。
 同社がある栗柄地域でつくられたタンスは「栗柄ダンス」と呼ばれ、他の産地のタンスよりも2割程度高く売れたという。当時1番の市場だった尾道は海沿いで多湿。木でできたタンスは湿気を含み変化するが、技術力の高い職人がつくる栗柄ダンスはその変化にも対応する精度の高いものだった。

 

1 9 7 0 ~ 1 9 8 0 年代に 一世を風靡した婚礼家具

 

 

天然木紫檀の高級感が漂う1965年前後の婚礼家具

 

 

ナチュラルなテイストになってきた1975年以降の婚礼家具

 

 

1950年代後半から1960年代前半頃の同社の工場内の様子。この頃は田植えなど農業が忙しい時期には、職人の家でも社員総出で手伝っていたという

 

 

“ありふれた日常”をコンセプトに 府中家具の新しい在り方を 模索し進化を遂げる

 

マルケイ木工のブランド、M-CRAFTの最新シリーズ「dual」。構造となるスチールフレームと、機能を受け止める木部という異素材を組み合わせ、スタイリッシュなデザインと優しい感触の二面性を併せ持つ

スタッキングが可能な、スチールと杢が融合したハイブリッドチェア、dual chair。しなやかさをもつホワイトアッシュを材とし、座ると体が木に包まれるようなフィット感が魅力

 

 

婚礼家具の次に目指すのは 思い出に寄り添う家具づくり

 

戦後、この地域では家具は製造から販売まで一貫して行うことが一般的になり、橘髙木工所は1958(昭和33)年にマルケイ木工株式会社として法人化。府中家具は全国に先駆けて、それまで単品で売られていた洋服ダンス、整理ダンス、和ダンスの3点を婚礼家具セットとして開発し、1970年代に団塊の世代が結婚適齢期を迎えたことで爆発的なヒットを生む。同じ頃、マルケイ木工ではそれまで紫檀や黒檀が一般的な材料だった婚礼家具に、ウォールナットやメイプルなどの木材をいち早く採用した。これら時代の一歩先を読む商品開発を、いかにして成しえたのか。府中ではもともと問屋を介さず、製造メーカーの社長が直接家具を売り込む営業スタイルがあった。そのため小売店や消費者のニーズをつかみやすく、商品開発に反映しやすいため、マーケティング戦略に長けていたのだ。また、各社が良い意味での競争意識を持つことで府中家具は飛躍的に発展。高級家具の産地として広く認知されるようになった。
 しかし、社会環境や住宅事情の変化により、近年では婚礼家具のニーズが激減。府中家具も過去の成功体験からなかなか脱却できずに低迷し、家婚礼家具の次に目指すのは思い出に寄り添う家具づく具専門店はピーク時の10分の1にまで減ってしまった。婚礼家具の業界が衰退しはじめたのは今から20年前で、この頃マルケイ木工がはじめたのがモノづくりを見直すことだった。
 婚礼家具はハレの日のモノであり、高ければ高いほど良いとされていたが、「家具はあくまでも生活の道具。大事なのは10年、50年、100年後に、直してでも使いたいものでありたい」との考えに行き着く。そのためには、普遍的なデザインと高い品質合わせ持つことは絶対条件。それに〝時間軸〞を追加して「時間の流れの中でどれだけ価値を見出せるか。10年後に本当に良いモノであるためにはどうすればいいのか」を追求。商品は婚礼家具に代えてテーブルやソファ、テレビボードなどを主流とし、オーダメードへの対応も開始した。 こうして「ありふれた日常」をコンセプトに、思い出に寄り添う家具を20年前から現在に渡ってつくり続けている。

 

 

木材を見極め正しく扱う

 

 

左)グレードが確定されていて品質が安定している北米産の木材が並ぶ。マルケイ木工ではSグレードを使用。
右)運ばれてきた木材は工場内で2週間留置し乾燥させる

 

品質の7割は“木取り”で決まる

 

木材と向き合うことから家具づくりがはじまる

 

マルケイ木工で家具づくりに使われる木材は、一部ヨーロッパからアフリカ材を輸入するものの、品質が安定した北米産が中心。同社の橘髙延幸社長は20代の頃、南米の材木屋で働きながら木材について学んだ経験を持ち、毎日多種類の木材に触れた、目利きの持ち主。その経験が今の仕入れに生かされている。
 運ばれてきた木材はまず工場内で2週間留置。運搬するコンテナ内では水分が偏在しているため、材の間に桟を置いて空気を通し、乾燥させるためだ。こうすることで木材の反りを抑制できる。
 次に、2週間乾燥させた木材を製材していくのだが、この木材から角材を切り出していく〝木取り〞が重要だという。木取りは、その材が持つ性質、良さを生かしながら、余りを出すことなく角材に製材していかなければならない。長年の経験で培った知識と勘、技術がものをいう作業だ。

正しく木取りされた材は、組み立てた家具の品質を安定させ、見た目も美しいものにしてくれる。

 

 

製材された木材を見ながら、木取りの重要性を解説してくれる橘髙社長

 

 

木の皮に近い方(年輪の外側)を木表、芯に近い方(年輪の中心側)を木裏といい、木材は木表側に反る性質をもつ

 

 

木材の反りを最小限に抑えるために、反る方向が異なる木表と木裏を交互に組み合わせることで、杢目も美しく仕上がる

 

 

木材の端を45度に切断して張り合わせる「留め加工」。接合部分を隙間なく仕上げるには、職人の高い技術が必要となる

 

 

仕上げの第1段階となる「研磨」は難易度が高く、経験と技量が求められる仕事。粗い目と細かい目のサンドペーパーを使い分けながら、ベルトサンダーを使った機械作業と手作業の両方で磨いていく

 

職人たちの技術と気質が支える家具づくり

 

「経営者」のような職人とマーケティングも担う営業

 

マルケイ木工の家具づくりを語る上で欠かせないのは、なんといっても職人たちの存在だ。
 橘髙社長は同社の職人たちを「経営者に近い」と表現する。新規の仕事がくると、彼らは完成したところまでを自分の頭に描くことができ、それをつくり上げるにはどのように進めていったらよいか、より良くなる方法はないかと最善の工程を組み立てることが
できる。与えられた仕様で部品を組み立てていく単なる〝作業者〞ではない。そんな職人気質の人間は、元来モノを
つくることが好きでプロ意識も高いので、日々の家具づくりを通して自らその技術を磨いていく。同社の家具の美しさ、品質の良さはそんな職人たちによって支えられている。
 また、営業担当者は商品を売り込みに行くのではなく「市場のニーズや変化をつかんでくる」ことが大事な仕事。営業は開発・マーケティングの担当者と位置づけ、20年前から変わらない「思い出に寄り添う家具」の理念はそのままに、その時代に即した商品開発を行っている。
 その技術力と開発力が、どの時代の人たちにも愛される家具を生み出し続けてくれるだろう。

 

 

職人として45年の経験をもつ平賀さん。カンナやノミをはじめ、仕事の相棒となる道具に不具合が起きたときは自分で直しながら使い、何十年も大切に使い続けている

 

 

自身の名前の焼き印が入ったノミの数々。使う人の手によって、刃のすり減る部分やすり減る早さも異なるという

 

 

約45年間研ぎながら大切に使い続けたノミ(左側)は、新品のもの(右側)と比べてこれほど短くなっている

 

 

角をわずかに削る「面取り」は、近づいて見ないと分からないほど細かく美しい仕事。職人の技術力の高さが細部にもうかがえ、より洗練されたものに仕上がる

 

 

 

モノづくりを通して見える家具メーカーと工務店の共通点

 

一世を風靡した婚礼家具から、コンセプトに基づいた日常使いの家具へ……時代に応じて主力商品を変えながらも、品質の高さは変えることなく進化するマルケイ木工株式会社の家具づくりに、工務店の家づくりと通じる部分を垣間見た

 

まさに“灯台下暗し”の衝撃求める家具は県内にあった 

 

塩田 当社がモデルハウスを建てた10年前、部屋に置く家具を飛騨高山まで探しに行ったものの、なかなかしっくりくるものに出合えず。そのときはイメージに近い他メーカーの家具を購入しました。その後に知ったのですが、この他メーカーの家具を手掛けていたのがマルケイ木工さんだったんです。さらに、当社で家を新築されたお客様がそろえられた家具が偶然にもマルケイ木工さんの商品で。まさに〝灯台下暗し〞で、「飛騨高山まで行かなくても同じ広島にある!」というのは衝撃的でした。府中家具というと、それまでは婚礼家具のイメージしかなかったからです。しかし、木にこだわって職人がつくり、お客様に長く使っていただくということにおいては、家と家具という違いはあっても、私たち広島県工務店協会に所属する各工務店とコンセプトがまったく同じ。家を建ててからも将来に渡ってアフターケアやメンテナンスに責任をもつという心意気は通じるものがあるのです。そうなればもう「家具を買うならマルケイ木工さんしかない」と思ってお付き合いがはじまり、今に至っています。当社のお客様で家具の購入を検討される方に対しても、「一生ものの家具を買うならマルケイ木工さんで間違いない!」と自信を持ってご紹介しています。
橘髙 当社が工務店さんからお客様を紹介していただきお付き合いするようになったのは、しおた工務店さんが初めてです。当社も小売りをはじめてまだ10年くらいなのですが、当時はここ府中市でも家具専門店がどんどん減っていき、もっといろいろな方に直接自社製品を見ていただいてきちんとアピールしなければいけないと考えていた頃でした。ショールームも、当時は売りたい在庫商品をできるだけ多く詰め込んだ倉庫のような雰囲気だったのですが、約4年前に改装して今のように家具のある空間を見せるような展示の仕方になりました。そのタイミングで看板から全部変えて、名称も昔からの婚礼家具のイメージが強い「マルケイ木工ショールーム」から、明確なコンセプトのもとで商品開発を行う自社ブランド名の「M -CRAFT」に変更。現在、得意先に対しても「M -CRAFT」の家具という形で提案をさせていただいていて、実際、今はダイニングテーブルやソファなどの商品が主力になっています。家も家具も、年月を経てこその味わいが出てくるもの。傷んだときに使い捨てて買い替えるのではなく、修理してでも使い続けていただけるものをつくることが、国内家具メーカーとしての当社の理想だと考えています。 

 

家も家具も本物の良さは10年経ってから分かる

 

塩田 工場を見学させていただいて感じたのですが、塗装1つにしても私たちが造作する家具とはさすがにひと味もふた味も違いますよね。
橘髙 色も塗り方も、そこはやはり家具メーカーですので(笑)。建てられた家に合わせて好みをお伝えいただければ世界に1つしかない家具もできます。量産とオーダーの違いは、家も家具も同じですよね。先ほども言いましたように、長く使っているうちに愛着を感じてもらえたり、「あのとき買って本当に良かったね」と言ってもらえるのは何年も後にはなりますが、やはり違いは出てきますよね。
塩田 「工務店で建てたからこその良さが出てくるのは、10年住んでから」と私もお客様によく伝えています。新築した瞬間の今が1番なのではなく、10年経ってから出てくる本当の良さを知ってもらいたいですね。
橘髙 例えばテレビボードを製作する際、お客様は高さが低い方がカッコイイと思っていても、「この空間でテレビを見るのなら、もう少し高い方が見やすいですよ」などと提案することがあります。これも長年家具づくりに携わってきた経験があるからです。当社の家具は何十年にもわたって長く使っていただくことが多いので、商品には10年保証を付けるだけでなく、修理の依頼にも最大限対応しています。このような対応もモノをつくる側の責任だろうと思いますね。この姿勢は、将来にわたって引き継いでいきながらモノづくりを続けていきたいと思っています。

 

備後エリアをもっと知り積極的に情報発信を

 

塩田 そのようなマルケイ木工さんの心意気は、「広島の家をつくる、そして守る」という、広島県工務店協会が皆さんに伝えたいメッセージとも共通しています。私たちは現状、広島市とその近郊エリアの広島県西部を中心に活動していて、なかなか府中市や福山市など広島県東部についてまだ知らないことが多すぎるように思います。モノづくりの町である府中市には、広くは知られていないけれど素晴らしい会社が本当にたくさんあるんですよね。
橘髙 製造業の町で、家具だけでなく最近ではラジコンヘリなど面白いものをつくっている会社も結構あります。いろいろなメーカーさんを訪ね歩いたら1日つぶれるくらいあるので、とても面白い町だと思いますよ。
塩田 福山や尾道にも素晴らしい家を建てる工務店がたくさんあります。私たちももっと広島県東部のことを知るべきだし、今まで以上に自分たちも情報発信をしていかなければならないと、今回改めて実感しました。
橘髙 逆に、府中市など備後エリアに住んでいて家を建てたいと考える方が、情報さえあれば安芸高田市の塩田さんの会社まで家づくりの相談に行くこともあるかもしれませんよね。実際、当社のお客様の半分が広島市内から来られる方ですが、5〜6年前までは広島市内からのお客様はほぼゼロでした。やはり情報発信は大事だと思います。
塩田 良いものをつくっていても、その情報を発信することが苦手なのは、工務店ならではの職人気質も少し関係しているのかもしれませんね(笑)。

 

 

工務店と家具メーカーに共通するのは「良いものを長く」のコンセプト
塩田 崇氏

 

 

家と一緒で、長く使っていくうちに愛着が沸いてくる家具づくりが理想

橘髙 延幸氏

 

 

Profile

一般社団法人 広島県工務店協会 会長
しおた工務店 代表取締役
塩田 崇氏

広島県安芸高田市甲田町生まれ。先代である父親の大工小屋で幼い頃から木に囲まれて育つ。県北の気候風土に精通し、昔ながらの日本家屋の良さに現代のニーズや施主のこだわりを反映した家づくりを実践。建築一筋30数年を超えた今も現場第一主義を貫く。2019 年から一般社団法人 広島県工務店協会 会長を務める。

 

Profile

マルケイ木工株式会社 代表取締役
橘髙 延幸氏

1956 年広島県府中市生まれ。大学卒業後、職業訓練大学校(現職業能力開発総合大学校)で聴講生として先端木材加工を学ぶ。その後、取引先木材商社のブラジル及びボリビアの現地工場にて約1 年間木材加工の研修を受け、帰国後にマルケイ木工株式会社入社。27歳で代表取締役副社長、35歳で代表取締役に就任し現在に至る。

 

 

工務店が手掛ける木造住宅に馴染みつつも空間を際立てる佇まい

 

 

経年美と愛着が増す時を経てからの楽しみがある家具

 

 

写真提供/しおた工務店 

 

 

マルケイ木工ショールーム

本社工場直結、製造メーカー自らが展開するショールーム。空間展示されているのでイメージをつかみやすく、部屋に合わせた相談にも乗ってもらえる。

〒726-0023 広島県府中市栗柄町3228-2
TEL:0847-45-4092(ショールーム直通)
[営業時間]10:00~18:00
[休館日]無休(夏期休暇、年末年始を除く)

※訪問の際にはホームページの予約フォーム、メールまたは電話による事前予約を

 

 

マルケイ木工株式会社
https://www.marukei-woodworks.co.jp

〒726-0023 広島県府中市栗柄町3228-2
TEL:0847-45-4020
[営業時間]10:00~18:00/[休館日]夏期休暇・年末年始

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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