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木造建築を担う広島の大工たち

木造建築を担う広島の大工たち

 

 

木の家を建てる上で欠かすことのできない職人の一人「大工」。彼らは日々、鍛練した技術を現場で遺憾なく発揮している。3060代の年代も職人歴も違う、5人の大工たちに木造建築に対する思いや、彼ら自身のストーリーを聞いてみると木の家づくりに対する思いが、より一層深まってきた。

 

 

 

 

 

 

大工歴50

政木 秀信氏(67

 

 

経験で培った技がなす手刻みの魅力は上品な佇まいと美しさ

政木さんはこの道一筋50年のベテラン大工。手に職をつけさせたいという親の意向で始めた大工の仕事も、徐々に誇りに感じるようになり、辞めたいと思ったことは一度もないという。 政木さんが大工になった当初は、すべて手刻みで家を建てていた時代。「昔は手刻みができて当たり前。大工の腕が家の善し悪しを左右していた」と胸を張る。約30年前から主要になってきたプレカットだが、手刻みの技術は今も衰えることはない。「梁で丸太を使う時なんかは腕の見せ所。機械ではできない複雑な場所にこそ大工の腕が必要になる」。複雑な形に刻んだ二つの柱をパズルのように組み合わる『追っかけ大栓継ぎ』もそのひとつ。機械にはマネのできない品の良さ、美しさは手刻みでしか醸すことができないものだと実感する。 ベテラン大工の政木さんが仕事をする上で大切にしているのが、営業スタッフや現場監督から伝えられる施主の想い。「最近の施主さんはよく勉強をしている。こちらも意見をよく聞いてから作業しないと納得がいくものに仕上がらない」。高い技術にあぐらをかくことなく、施主の言葉に耳を傾けることができる真の大工だと感じた。

 

 

『追っかけ大栓継ぎ』を描いて説明してくれた

 

手刻み木材に墨(印)をつけ、鑿(のみ)や鋸(のこぎり)、鉋(かんな)を使い大工が手で刻んでいくこと

 

 

 

 

大工歴25

上田 将成氏(40

 

向上心を忘れない職人集団を率いる若きリーダー

13人の大工が集う職人集団、(有)ヨーキに所属する上田さんは、小さいころからプラモデル制作や工作が好きで、自然と大工の道を志したと言う。16歳で同社に大工見習いとして就職し25年が経った今は、経営者の右腕として職人や現場を管理する立場でもあるのだ。しかし、「常に技術を磨いていきたいので、現場からは離れたくないですね」と、あくまでも現場主義を貫く。 そんな上田さんが大工になりたての頃、手刻みを習得するために本屋に行き仕口の本を購入。それを見ながら独学で学び、現場で試しては先輩に見てもらい、技を磨いていったという。 自分の培ってきた技術に誇りを持ちつつも、決しておごらず常に向上心を持っている上田さんの原点を垣間見たエピソードだ。 また、上田さんが現場で大切にしていることは、お施主様とのコミュニケーションだと言う。お施主様の要望を聞きながら、現場で提供される材料でできることなら対応する。「前の現場では、ご主人さんがキーケースやケータイをわざわざ寝室に置くように考えていたので、玄関に小さなニッチを造り、そこにフックを付けてキーケースなどが置けるようなスペースを造りました」と上田さん。大工の腕と心意気を感じた。

 

 

技術向上の日々がお施主様に伝わる家づくり

 

 

 

大工歴20

佐藤 静雄氏(39

 

木材の特性や魅力を熟知して家づくりと向き合う

佐藤さんは、中学生の頃から木を加工するのが好きで、本棚などをオリジナルで製作。「子どもの頃から木材の手触りや香り、質感に魅力を感じていました」と話し、大工になるのは、ごく自然なことだったと振り返る。工業系の高校で建築課に進学し、建築について学んだ後、岐阜県の工務店に就職。寺やお宮を施工する会社で宮大工として高い技術を磨いてきた。 佐藤さんが手がけた家には、これまでの経験を遺憾なく発揮した確かな技術が光る。「最近はプレカットされた木材が現場に運ばれてきますが、木材を適材適所に使用するのも大工の仕事」。杉やヒノキなど木の種類によっても変わる特性や、建材の持つ向きやクセをこれまでの経験によって見極める。それまでの笑顔とは別人とも思えるほど、木材を見つめる佐藤さんの眼光は鋭い。木を知り尽くした佐藤さんだからこそなせる技なのだ。 「これからもみなさんに喜んでもらえるような仕事をやっていきたい」と言葉数少なに語る佐藤さん。その横顔から技術と経験に裏付けされた自信が顔をのぞかせる。多くを語らず仕事と心身に向き合う実直な姿勢が魅力だと感じた。

 

木材に触れる佐藤さんは職人の顔に

 

 

 

大工歴17

椎葉 和昭氏(35

 

 

手入れされた道具と丁寧な施工から感じる見えない所への心配り

大工という夢を持ちながら叶えることができなかった父の想いを継ぎ、この道を選んだ椎葉さん。高校卒業後、大工だった叔父に弟子入りし2年前に独立した。 大喜の物件を手がけるようになったのもちょうどその頃。在来工法で建てる木の家に、大工としてのやりがいを感じたという。2年間で担当した大喜物件は8棟。断熱性・気密性にこだわる大喜の家は正直、施工に手がかかる。「施主さんに、なんで大喜で家を建てることにしたのかを聞いてみると、気密性・断熱性に魅力を感じたという人が圧倒的に多かった。その声に応えたい」と椎葉さん。通常テープで留める天井の断熱材の継ぎ目には、コーキング材を施し、断熱性能をアップさせる。「ちょっとした手間で暮らし心地が変わる。それに、施主さんが数年経ってから屋根裏に上がった時、テープがはがれていて、がっかりさせたくない」。これまで培ってきた経験と施主への心遣いが椎葉さんを奮い立たせる。 椎葉さんのポリシーは道具を大切にすること。現場では使うことが少なくなった刃物も丁寧に手入れされている。「大工としてどんな要望にも応えられるのがプロの仕事」と、研ぎ澄まされたノミを見せてくれた。

 

断熱材の継ぎ目にコーキングを施す椎葉さん

 

 

 

大工歴12

中山 隆介氏(30

日々努力を重ね手刻みで家を建てる若き職人

中山さんは永本建設の社員大工。中学生の頃から大工という仕事に憧れを抱き、工業高校卒業後、職業訓練校で木造建築について学んだ。訓練校の先生の紹介で永本建設を知り、手刻みによる加工や木組みなど、家づくりのコンセプトにほれ込んで入社を決めた。 下積みを経て入社4年目には現場を任されるまでに成長。現在建設中の家は、すべて手刻みというから驚かされる。「家づくりは一軒、一軒すべて違う。そこが難しさでもあり楽しさでもある」とこの仕事の魅力を語る。中山さんの現場はすっきりと片付き、整理がいき届いているのも特徴的。「もちろん施主さんのためですが、人に見られていない所もきちんとすることが自分の自信にも繋がっている」と話す。丁寧に手入れされた刃物も同じ理由からだ。 一級技能士の国家資格を取得したり、大会に出場したりと現場以外にも積極的に参加し技術の向上を図っている中山さん。「大会で上位入賞する人はやっぱりうまい。刺激を受けて、もっと上を目指したいと思えた」と振り返る。「これから出合う現場で、自分の腕を発揮できるようがんばりたい。」と目を輝かせた。

 

手刻みで加工して組んである梁。木造住宅の醍醐味

 

 

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