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住宅診断リアル座談会

住宅診断リアル座談会in広島県工務店協会

 

株式会社旭ホームズ取締役副社長
末岡京子氏


株式会社旭ホームズ営業課長
名藤健治氏


株式会社大喜代表取締役
柿田勝司氏


しおた工務店代表取締役
塩田崇氏


橋本建設株式会社代表取締役
橋本英俊氏


IKEHOUSE代表取締役
後藤和彦氏


編集部:ホームインスペクションには、目視による簡易診断と、詳細診断がありますが、どのような違いがあるのでしょうか?


後藤:ホームインスペクションの診断は基本は目視で行います。現場の状況次第で、水平・垂直を調べるオートレーザーやサーモグラフィカメラなどを使います。


柿田:新耐震基準の家で、基礎に鉄筋が入っている築年数であれば、目視のホームインスペクションからスタートします。逆に、築年数が経過しており、古い物件で劣化が進行している場合は、詳細診断をしなくても構造的にも耐久性としても問題があることがわかるため、簡易診断か詳細診断かを決めるのは、「その後どの程度、住みたいか」「どこまで直したいか」によると思います。

 

橋本:リフォームして長期間住むのであれば念には念を入れて詳細診断を入れてもよいかと思います。中古を買う前に欠陥住宅かどうかを知りたいのであれば、目視による簡易診断でよいかと思います。いずれにしても、お客様がどこまで不安を持たれているかによるかと思います。私たちとしては、わざわざ値段の高いほうを進める必要はないと思っています。

 

編集部:どのような人がホームインスペクションをしているのでしょうか?

 

橋本:ホームインスペクションを専門に扱う専門会社、設計事務所、私たちのような工務店などでしょうか。住宅診断士の資格を持って、診断・検査を中心にやっている人は多いと思います。

依頼先を選ぶ上では、瑕疵担保責任保険(※1)についても熟知している担当者がいいと思います。というのは、瑕疵保険に入ると、金利優遇や減税などのメリットが出るからです。ホームインスペクションと同時に、瑕疵保険の検査をすることができます。金利や減税メリットで、ホームインスペクション分の費用は元を取れることになります。もし、中古物件を案内する不動産会社の担当者やホームインスペクションの依頼先が、この瑕疵保険のことを知らなかったら、本来安い金利で住宅ローンを借りられたのに、借りれなかったということになりかねません。

 

編集部:実際に、皆さんの会社では、ホームインスペクションをどのような形で行っているのでしょうか。


柿田:当社は、中古物件を買う前の調査依頼は少ないです。リフォームのご相談時に多いです。当社では、キッチンだけをリフォームする場合でも、現場調査(リフォーム提案前に現地の状況を調査すること)をします。せっかく調査をするのでホームインスペクションをやりましょうとオススメしています。


橋本:診断の結果、想定していた工事箇所以外にも修繕箇所が見つかり、「そっちにもお金かかるのか」となったりはしませんか。

 

柿田:診断結果から出てきた項目を全部直す人は少ないです。優先順位をつけて判断されますね。例えば、基礎にひび割れがあったからといって、「基礎を全部補強」となると、それはお金がかかります。


橋本:無筋(鉄筋が基礎に入っていない)で、ひびが入っていたりすると100万円以上かかるケースも少なくないので、、「どうしましょう......」となります。


柿田:お客様の不安だけが残ってしまいます。もしその場合、「シェルター方式のようにこの部屋だけは補強しましょう」と限定した空間だけ耐震補強をさせていただくご提案をするなどしています。


後藤:当社の事例では、はじめはマンションを探していましたが、いい物件が見当たらないため一戸建ても視野に入れて探していただきました。大きめの中古一戸建てが見つかり、リフォームを前提にホームインスペクションを実施。床下にも潜って、診断書を提出し、「こ
れなら大丈夫」ということで、購入をしていただきました。

ほかには、築50年ほどのご自宅を、リフォームをして住むか、建て替えをするかというご相談をいただきました。これから何十年と住むために、家が持つのかどうかを見極めるためにホームインスペクションをさせていただきました。現在、新築の計画をしながら、リフォームの計画も、平行して進行しています。


橋本:ホームインスペクションという調査そのものは、私たちはリフォーム前の現場調査という形で、以前から仕事の一環として行っていました。報告書を作成して提出ということはしていなかったものを、きちんと記録に残すようになったのが、このホームインスペクションともいえます。


編集部:旭ホームズ様は、印象に残っているお客様はいらっしゃいますか?


名藤:再建築のご相談がありました。当時建築した建築基準法から変わっているので、がけ条例や掘り込み車庫が建て替えに対応できるのかという内容です。建築基準法の改正によって、建て替え時は、建築面積や構造的に制約が発生することをお客様が知っていることが多いです。この場合は、他社さんが建て替えで提案していたところ、当社はリフォームでご提案させていただきました。新築はコストが高いですが、リフォームでご提案すると、価格的にも抑えることができます。


編集部:その人は問い合わせの段階からホームインスペクションを希望されたのですか?

 

名藤:長期優良住宅化リフォーム推進事業(※2)が登場した時期でした。ホームインスペクションが申請条件の中に含まれているので、申請前に先にリフォーム前の既存の状況を履歴として残すためにご提案させていただきました。

 

編集部:ホームインスペクションを依頼する中で気を付けておくべきポイントはありますか?

 

橋本:自分の不動産を早く高く売りたい売主側に立ったホームインスペクションなのか、これから中古物件を購入しようとする買主側に立ったホームインスペクションなのかによって、診断のさじ加減が変わる可能性があることです。

 

編集部:早く売りたい売主側のホームインスペクションは診断結果が甘めになってしまう、ということでしょうか。橋本:判断のさじ加減は難しいところがあります。例えば、「雨漏りの形跡が見られたとしても、台風のときに横風を巻き込んだ可能性がある」という症状を「劣化」として診断するか、「突発的なもの」として伝えるべきか。あまり不安をあおってもいけないですし。結局、事実を話すことが大切です。売主側にも買主側にもつかない公平なところに頼んだほうがいい。むやみに不安をあおるところには頼まないほうがいいですね。


(※1)瑕疵担保責任保険......建物が完成後に雨漏りなどの瑕疵が見つかった場合、保険で対応ができるというものです。ただし、この瑕疵保険に入るためには、検査を受けて合格しなければならない。瑕疵保険の対象となるのは、原則、新耐震基準に適合した(1981年6月1日以降に建築確認を受けた)住宅に限る。もし、新耐震基準ではない住宅であれば、耐震基準適合証明書等の提出を行い、保険法人の現場検査に適合すれば保険に入ることができる。
(※2)長期優良住宅化リフォーム推進事業......質の高い住宅ストックの形成及び子育てしやすい環境の整備を図るため、既存住宅の長寿命化や三世代同居など複数世帯の同居の実現に資するリフォームを推進する事業。国土交通省管轄。規定の条件を満たしたリフォーム工事、ホームインスペクション、維持保全計画、リフォーム履歴作成などを行うことで、リフォーム工事などにわる費用を100万円~最大300万円まで助成する制度。

 


編集部:ほかに注意すべき点はありますか?


柿田:診断だけで終わってしまうのではなく、修繕・補修を前提として考えるとよいです。

 

橋本:旧耐震基準の住宅に住んでいるのは、年配の人も多いため「家が壊れるときは、わしが死ぬときよのぉ」と言って、耐震補強をしない場合があります。診断で現状を把握することも大切ですが、それを通して補強をすることが大切です。

 

編集部:各社様の直近のインスペクション実績は何件くらいなのでしょうか?

 

名藤:診断書を実際に発行したのは、直近1年で2件ほどでしょうか。ほかにはホームインスペクションではないですが、フラット35の適合証明書を出したことがあります。


橋本:ホームインスペクション単体だけの依頼は現状ほとんどないですね。不動産屋さんからの依頼で行ったことはあります。これからご自宅を売りに出す場合、ご自宅が新耐震基準の住宅であれば、住宅ローンの金利が安くなり、固定資産税が安くなるため、ホームインスペクションをしておくと差別化をすることができます。築浅のご自宅を売りに出す場合は、ホームインスペクションはやるべきだと思います。

 

柿田:リフォームの現況調査を兼ねて、累計では何十件もやっています。一般診断を行い、診断後の補強提案をしています。


名藤:それは、大型リフォームのご相談の場合だけですか?


柿田:大型リフォームに限らず、部分的なリフォームでも、「やっておいたほうがいいですよ」とオススメしています。

 


末岡:キッチンだけのリフォームのときも行っていますか?

 

柿田:ケースによりますが、風呂、洗面などをリフォームするときは、まず、シロアリの調査を行いますので、床下に潜らせていただくなら、「一緒に検査・診断しましょう」とご提案しています。当然、劣化をチェックしますので、結果をご報告するためには、ホームインスペクションの写真付報告書がわかりやすいです。


編集部:リフォームのための現場調査の流れで、床下、シロアリの調査を行い、ついでにそのほかの部分も診断するというのは自然な流れなので依頼側としてもお願いしやすいですね。


柿田:お客様は、ホームインスペクションという調査方法を知らないので、私たちが「やりましょう」とオススメしなければなりません。

名藤:効率がいいですね。


柿田:もしくはさきほど後藤社長がおっしゃったように、建て替えかリフォームにしたほうがよいか迷っている場合は、現状を調べないと工事費用が算出できないので、診断させていただいていますね。このように、工事内容や目的に柔軟に対応できるのが、工務店の良さだと思うんですよね。

 

編集部:塩田様はいかがでしょうか?

 

塩田:この9月に中古物件購入前のホームインスペクションのご相談をいただいています。2018年4月より宅建業法が改正され、中古住宅の売買時に、ホームインスペクションについて不動産業者が買主や売主に対して説明し、ホームインスペクションを紹介・あっせんすることが義務化されましたが、不動産屋さんで、ホームインスペクションを必ず入れよう、と取り組んでいる人は少ないですね。

 

橋本:不動産仲介時の重要事項説明では、アスベスト使用の有無について説明をしなければなりませんが、さらっと流して説明する人が多いですからね。おそらく、ホームインスペクションについても、購入する人が気にしていなければ「さーっ」と流して終わりですよ。お客様も重要事項説明には、ほとんど目を通していない人が多いですからね。


編集部:不動産仲介業者さんは依頼されている売主さんから「早く売ってくれ」というプレッシャーがあり、さらに売ることができたら手数料報酬を得ています。それに対して、工務店のみなさんはお客様が安心して暮らせる住まいを提供することを企業の目的としているので、視点が違いますね。

 

後藤:橋本さんは宅建業を持っているでしょ?それを最大限生かして不動産業をしたらどうですか。


橋本:確かに中古流通は基本的に不動産がからんできますから工務店が不動産をやるというのはいいですね。


編集部:地域の家守りである工務店さんが不動産仲介をしてくれると安心ですね。ぜひ期待しています。


編集部:今後、ホームインスペクションの普及についてはどのように進んでいくのでしょうか。

 

柿田:矢野経済研究所が2018年6月日に発表した調査結果によると、2016年度のホームインスペクション件数は4万5000件、2017年度は5万2500件を見込み、2018年度は6万1400件になると予測しています。毎年%ずつインスペクションの件数が伸びてきています。そのうち、買主主体のインスペクションは2016年度1万5000件、2017年度1万6500件(見込み)、2018年度1万8200件(予測)と10%ずつ伸びてきています。


橋本:しかし、広島には、まだその波は来ていないですね。このデータの伸びは東京都内や、大手不動産会社のホームインスペクション件数が影響しているのだと思います。


柿田:ただ、この流れがこれから少し時期を遅れて地方都市の広島にも普及してくると思います。私たちが先んじてホームインスペクションの重要性を発信することが大切だと考えています。

 

編集部:住宅の性能を評価する「ラベリング」は業界全体的に増えてきています。大手不動産情報サイトの「summo」LIFULLHOME'S」は、住宅評価書の有無で物件情報が検索できるようになっています。また、広島県工務店協会では、診断済み物件に対して「安心じゃ検ひろしまR住宅」のラベル発行を開始予定ですよね。ホームインスペクションの実績件数を増やしていき、消費者が不動産購入時の判断基準の一つとして見ていくことが大事です。
現在は中古住宅は図面すらないというのが現状です。「ここを直したけどいつなおしたかわからない。でも見た感じ大丈夫そうだからいいじゃない」という状況。だから中古物件を購入するときに不安を感じて購入を差し控えるという状況があります。ホームインスペクションによって、不動産を買いやすい環境が整ってくればよいですね。


編集部:そのほか、ホームインスペクションを生かせる方法はありますか?

 

後藤:市町村に空き家バンクがあるでしょう。それを集会所にすると補助金を出すというものがあるのですけど、そのためにはその空き家の状況を調べておかねばなりません。それを広島県工務店協会として診断ができれば、空き家を直して流通させることができるのではないかと思うんですよね。

 

柿田:安芸高田市は空き家バンクがあるかと思いますいかがでしょうか。

 

塩田:安芸高田市は年間40件空き家を売っているそうです。さらにすごいのは北広島町が年間80数件販売しているそうです。そこで、私は空き家バンクに登録している物件に全棟ホームインスペクションをつけさせてほしいと働きかけています。さらに「リフォーム目安金額」をつけさせてほしいと提案しています。例えば、ホームインスペクションで「屋根がダメですね」と結果が出たとして、通常は「あ〜、屋根ダメなんですか」で終わってしまう。そこに「屋根の葺き替え工事目安〇〇万円」と修繕の参考金額を協会や組合の名前で提示できればと思うのです。

 

後藤:瀬戸内の島しょ部にも空き家が何百件もあると聞いています。


塩田:その空き家に全棟インスペクションがついて修繕の参考金額がわかっていたら、空き家を買う人にとっては、「購入して、直して住むのにいくら」という総額で検討できるようになります。

 

編集部:インスペクションが空き家の活用に寄与できたら、それは素晴らしいことですね。ぜひ実現に向けて頑張っていただきたいと思います。



自宅のリフォーム工事、または中古物件の購入前に広島県工務店協会の会員企業にインスペクションを依頼しませんか?

インスペクションを依頼したい・相談したいときは、本誌掲載の工務店にお問い合わせください。

 

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